冬菜かしこの「のんびり ゆっくり 親孝行」の日々

70歳代後半の親と50歳代前半の娘のゆるい介護のような親孝行の記録です

【エッセイ】義母とやわもちアイス

 

 

先日の事。

次女が朝から療育に行く日だったので、

長女と二人でのんびり過ごした。

もともと、のんびり屋さんの長女と私。

なにをするでもなく、のほほんとしていた。

それでも「なにかしたーい!」

言われたもので、

近所のコープに3時のおやつに、

アイスを買い食いしようと出かけた。

 

疫病がおさまったので、

ようやくスーパーのイートインコーナーが使えるようになり、

自転車利用者の私にとっては、

アイスをすぐに食べられるのはうれしい限り。

もちろん、氷などを駆使すれば、

アイスを買って帰って食べることもできるが、

帰宅してすぐ食べても、

どうしても、ちょっと緩いアイス、

になるのがちょっと残念なんだよね。

 

ということで、長女とお出かけして、

アイスを選んだ。

いつもは、サンデーカップやチョコ系のアイスを選ぶのだが、

この時目についたのは、「やわもちアイス」。

しかも普段見ない、抹茶を使ったもの。

珍しいな、抹茶味か。

そう思って見ているうちに、

何だか無性に食べたくなったのだ。

 

この「やわもちアイス」は、

もともと義母が好きだったアイスだ。

主人の実家でみんなでアイスを買いに行き、

「これが、おいしいんよ」

と義母がうれしそうに教えてくれたのだ。

「そうなんですね」

そう言ってはみるものの、

どうしてもチョコ系に目が行く私は、

うなずきはしても、

一度も一緒に食べることはなかった。

 

カップ入りの、白玉が入っているアイス。

珍しいし、たぶん美味しいのだろうけれど

その時の自分の気分ではなかったので、

それを選ばなかった、

それだけのこと。

特に、申し訳ないと思ったこともなかった。

各自が好きなアイスを選べばいい、

そう思っていただけなのだ。

 

それなのに。

10か月前に義母が亡くなってから、

主人の実家に行くたびに、

いつもいくスーパーのアイスコーナーを見ては、

「やわもち、好きだったな。

一緒に食べてあげればよかったかな」

と思ってしまう。

なんでもないそんなことに、

胸がぎゅっとなり、ほんのひと時、

「これがおいしいんよ」

という義母の明るいうれしそうな声が

思い出されるのだ。

 

初めて食べた、やわもちアイスは、

おもちがすこし固めで、

しっかりとした歯ごたえで、

それをシャキシャキのかき氷状のアイスが取り囲み、

表面にはとろりとしたクリーム色の練乳がかかり、

一緒に食べると、白玉入り抹茶かき氷を食べているようで、

なんともぜいたくな気持ちになった。

 

「これが、お義母さんの言っていた、

おいしい、やわもちアイスなんですね」

心の中でそう言いながら、

ひと口ひと口かみしめながら、

味わっていった。

そばには長女が新作の味のお気に入りのアイスを、

うれしそうに食べながら、

冷たい冷たーいと、

つぶやいていた。

 

それをそばで見ながら、

それでも、やわもちアイスを食べながら、

ちょっと感傷的になっている私は無口で、

静かにアイスをかみしめていた。

もどらない時間を思いながら、

「ああすれば良かった、

こうすれば良かった」

そんなことの積み重ねだなと、

ぼんやりと考えていた。

 

義母がいたころはスーパーに

いろいろな種類のやわもちアイスがならんでいたものだが、

最近はすっかりその範囲をけずられてしまい、

なんだか寂しい気持ちにもなっていた。

それがなくなったからといって、

義母との思い出が消えるわけではないのに、

なにかが少しずつ風化してしまうような気が

してしまっていたのだ。

 

そういえば、義母が入院する少し前に、

行きつけのスーパーが店内の配置を大幅に変えて、

レジも現金セルフが導入されて、

それにともない、義母の顔なじみのレジおばちゃんも、

大幅に減ったように思った。

私達家族と義母がそろってスーパーに行くと、

なじみのレジおばちゃんが、

「今日はお孫さんと一緒でいいねえ」

などと明るく会話してくれていたものだ。

 

その方々がいなくなったのは、

私も少々さみしく、

おそらくは義母も同じ思いだったのではないかと思う。

そんな小さな出来事を、

この小さなやわもちアイスは、

思い出させてくれた。

 

アイス業界は新作がしょっちゅう発売される

激戦業界だと思う。

新作が出るのはうれしい反面、

慣れ親しんだアイスが姿を消すのは、

その思い出もうすれていくようで、

残念な気持ちになる。

 

今はまだまだスーパーに並ぶ、やわもちアイスも、

いつその地位を失うことになるか、

分からない。

そう思うと、今回思い切って食べてみて、

その美味しさを感じることが出来て、

良かったなと思う。

 

いつだったか。

私たち家族と義妹家族とが集まって、

総勢9人が集まった時に、

「アイスを買ってきて」

とお金を渡されたことがあった。

いつもは倹約しているらしい、

年金生活者の義母夫婦。

私は機転を利かせて、

ハーゲンダッツのミニカップ詰め合わせ」

を選んで買って帰った。

 

堅実な生活をしているものの、

実は百貨店が大好きな義母。

私の選んだハーゲンダッツのアイスに、

ことのほか喜んだようで、

思いっきり頬がゆるんでいた笑顔を思い出す。

その顔が今も脳裏に焼き付いて、

「かわいいところのある方でした」

と楽しい思い出に、

ひととき現実を忘れる。

 

今は亡き義母。

それでも私は生きている。

今までの宝物に感謝して、

これからを生きていきたいと思う。

感謝を胸に。