冬菜かしこの「のんびり ゆっくり 親孝行」の日々

70歳代後半の親と50歳代前半の娘のゆるい介護のような親孝行の記録です

【エッセイ】カーテンを新調

実家のリフォーム部屋のカーテンを新調した。

 

その日は、本当は雨だから来なくていいと言われていたが、

やはり、心配だったので勝手に行ってみた。

そして、いざ、行ってみれば、

「あんたと一緒に、カーテンを買いに行きたかったのよ」

とのこと。

なぬ?

 

結局、私が来た方がよかったんじゃないか。

相変わらずの「来なくてもいいのに作戦」に、

がっくりきた。

いつまで、こんな作戦を続けるのか。

いちいち疲れる。

 

しかし、さて。

カーテンを買いに行くにしても、実家には車がない。

来月なら主人の車で一緒に買いに行けると思ったのだが、

「ひと月もすると、フローリングが色あせるから」

と急かされてしまった。

結局、すぐに、タクシーでニトリへと向かった。

 

久しぶりの大型店で、

母はきょろきょろしていた。

カーテンを見るはずが、

なぜかベットコーナーへと足が向かう。

「介護ベットはもうやめて、

小さい普通のベットにしたい」

そう言いながら、ベットコーナーを見て歩く。

 

確かに、新しくリフォームした6畳間に、

介護ベットは大きすぎる。

「もう体は大丈夫だし。リクライニングしなくてもいい。

今はもう病人じゃないんだし」

そう言って、嬉々としてベットを品定めする母。

「これなんか、いいんじゃない?」

小ぶりな畳ベットを指さす。

 

うん、いいと思う。

いいと思うけど、今はカーテンを見ないとね。

ベットコーナー見ているだけで、

疲れちゃったら駄目だからね。

そう思った矢先、母の方から、

「まずは、カーテン選ばないとね」

と本来の趣旨を思い出した模様。

良かった。

 

そして本題のカーテン選びに向かった。

なぜかスッカスカのカーテンコーナーに疑問を感じ、

店員さんに聞くと、

「レイアウト変更中なので。あ、でも、品数はあまり変わりないです」

とのこと。

そうか、色々移動中なのか。

ついてないな。

でも、こちらは急ぎの買い物なのだ。

何が何でも、今日、買って帰らないと、

フローリングがえらいこっちゃになる。

私は強く思った。

 

売り場には、20列だか30列だか、

見ているだけで疲れそうな程、

ずらりとカーテンが並んでいた。

グリーンにスカイブルーにピンクにベージュに、

幾何学に葉に花に、

いろいろな色や柄があり、母は迷っていた。

でもその過程も楽しんで、

「どれがいいかなあ」

とはしゃぎながら迷っていた。

 

結局、グリーンの小さな小花模様のものを選び、

これにする、とした。

レースのカーテンも好きなものを選んだが、

それは在庫切れだった為、注文して、

後日配送となった。

 

帰りは、バスの予定だったが、

疲れた母が、タクシーにすると言った。

電話で予約すると、早ければ5、6分で来ると言った。

タクシー到着までの間、母は、

「ちょっと見たい」

と店内を見て回っていた。

さながら、子供のような無邪気な様子であった。

 

「ああ、買い物に来たかったのだな」

と実感した。

何でもいいから、気分転換をしたかったのだなと思った。

そして同時に、

それほどまでに、日ごろ、気を張って、

認知症の父の介護を頑張っているんだなと感じた。

 

申し訳ない。

私にはどうしてあげることもできない。

せめて週一回の実家帰省で、家事手伝いと、

愚痴を聞くぐらいしかできない。

それでも、母に気を配るくらいは出来ているか、と思った。

 

タクシーが来て、実家に帰った。

残念そうに、ニトリを後にした母。

本当はもっと見て回りたかったのだろう。

「また、来ようね」

というのが、精一杯のなぐさめであった。

 

帰宅して、カーテンを取り付ける。

暗くなった部屋に照明をつけると、

薄いグリーンのやわらかな色が、

リフォームしたての、きれいな部屋に映えた。

 

「やっぱり、もう少し高いものにした方が良かった」

と後悔をにじます母に私は言った。

「これがいいよ。すごくいい。

やさしい、かわいい感じで、雰囲気がとてもいいよ」

母が何と思ったのかは分からない。

でも、私の言葉が母を、

ポジティブに変えてくれたらいいなと思った。

 

「これで、一応、部屋は整ったね」

とにこやかに言う母に、

「そうだね。あとはゆっくり、タンスとか、買っていけばいいね」

とうなづいた。

 

ニトリでも、タンスを少し見た。

実家にある、

引き出しが信じられないくらい重いものではなく、

横にレールのついた、かるーく開閉できるタイプ。

母も、これなら軽くていい、と言っていた。

 

一度に全部は出来ないけれど、

ゆっくりそろえていけばいいと思う。

それは、裏を返せば、

時間をかけても大丈夫なように、

私が母を支えて、長生きをお手伝いしていく、

という決意表明。

まだ先は長いのだと、今を楽しんでほしいとの、

私の願いでもある。

 

居間の引き戸を開けはなした。

居間とリフォーム部屋がひと続きになった。

そして。

私と母が、居間の中から、リフォーム部屋を見る。

照明もカーテンもついて、白い壁紙がまぶしい。

 

「いいね」

と私が言えば、

「いいのよー」

と母が返す。

ひと月前には思っても見なかった、

美しい光景が広がっている。

 

なんだかいいこと、ありそうだなと思う。

ここから、いい気流にのって、

上昇して行けたらと思う。

来年の事も、5年後、10年後のことも、

今はまだ見えないけれど、

この一瞬一瞬を大切にしていきたいと

思えてきたのである。

 

と、その前に、

今回のタクシー代が、

五千円ほどかかったことを、

母に注意しておかなければ!

バスで行ける場所は、バスで行かなければ!

幸せの上昇気流に、

散財は大敵なのである。