実家のリフォーム部屋のカーテンを新調した。
その日は、本当は雨だから来なくていいと言われていたが、
やはり、心配だったので勝手に行ってみた。
そして、いざ、行ってみれば、
「あんたと一緒に、カーテンを買いに行きたかったのよ」
とのこと。
なぬ?
結局、私が来た方がよかったんじゃないか。
相変わらずの「来なくてもいいのに作戦」に、
がっくりきた。
いつまで、こんな作戦を続けるのか。
いちいち疲れる。
しかし、さて。
カーテンを買いに行くにしても、実家には車がない。
来月なら主人の車で一緒に買いに行けると思ったのだが、
「ひと月もすると、フローリングが色あせるから」
と急かされてしまった。
結局、すぐに、タクシーでニトリへと向かった。
久しぶりの大型店で、
母はきょろきょろしていた。
カーテンを見るはずが、
なぜかベットコーナーへと足が向かう。
「介護ベットはもうやめて、
小さい普通のベットにしたい」
そう言いながら、ベットコーナーを見て歩く。
確かに、新しくリフォームした6畳間に、
介護ベットは大きすぎる。
「もう体は大丈夫だし。リクライニングしなくてもいい。
今はもう病人じゃないんだし」
そう言って、嬉々としてベットを品定めする母。
「これなんか、いいんじゃない?」
小ぶりな畳ベットを指さす。
うん、いいと思う。
いいと思うけど、今はカーテンを見ないとね。
ベットコーナー見ているだけで、
疲れちゃったら駄目だからね。
そう思った矢先、母の方から、
「まずは、カーテン選ばないとね」
と本来の趣旨を思い出した模様。
良かった。
そして本題のカーテン選びに向かった。
なぜかスッカスカのカーテンコーナーに疑問を感じ、
店員さんに聞くと、
「レイアウト変更中なので。あ、でも、品数はあまり変わりないです」
とのこと。
そうか、色々移動中なのか。
ついてないな。
でも、こちらは急ぎの買い物なのだ。
何が何でも、今日、買って帰らないと、
フローリングがえらいこっちゃになる。
私は強く思った。
売り場には、20列だか30列だか、
見ているだけで疲れそうな程、
ずらりとカーテンが並んでいた。
グリーンにスカイブルーにピンクにベージュに、
幾何学に葉に花に、
いろいろな色や柄があり、母は迷っていた。
でもその過程も楽しんで、
「どれがいいかなあ」
とはしゃぎながら迷っていた。
結局、グリーンの小さな小花模様のものを選び、
これにする、とした。
レースのカーテンも好きなものを選んだが、
それは在庫切れだった為、注文して、
後日配送となった。
帰りは、バスの予定だったが、
疲れた母が、タクシーにすると言った。
電話で予約すると、早ければ5、6分で来ると言った。
タクシー到着までの間、母は、
「ちょっと見たい」
と店内を見て回っていた。
さながら、子供のような無邪気な様子であった。
「ああ、買い物に来たかったのだな」
と実感した。
何でもいいから、気分転換をしたかったのだなと思った。
そして同時に、
それほどまでに、日ごろ、気を張って、
認知症の父の介護を頑張っているんだなと感じた。
申し訳ない。
私にはどうしてあげることもできない。
せめて週一回の実家帰省で、家事手伝いと、
愚痴を聞くぐらいしかできない。
それでも、母に気を配るくらいは出来ているか、と思った。
タクシーが来て、実家に帰った。
残念そうに、ニトリを後にした母。
本当はもっと見て回りたかったのだろう。
「また、来ようね」
というのが、精一杯のなぐさめであった。
帰宅して、カーテンを取り付ける。
暗くなった部屋に照明をつけると、
薄いグリーンのやわらかな色が、
リフォームしたての、きれいな部屋に映えた。
「やっぱり、もう少し高いものにした方が良かった」
と後悔をにじます母に私は言った。
「これがいいよ。すごくいい。
やさしい、かわいい感じで、雰囲気がとてもいいよ」
母が何と思ったのかは分からない。
でも、私の言葉が母を、
ポジティブに変えてくれたらいいなと思った。
「これで、一応、部屋は整ったね」
とにこやかに言う母に、
「そうだね。あとはゆっくり、タンスとか、買っていけばいいね」
とうなづいた。
ニトリでも、タンスを少し見た。
実家にある、
引き出しが信じられないくらい重いものではなく、
横にレールのついた、かるーく開閉できるタイプ。
母も、これなら軽くていい、と言っていた。
一度に全部は出来ないけれど、
ゆっくりそろえていけばいいと思う。
それは、裏を返せば、
時間をかけても大丈夫なように、
私が母を支えて、長生きをお手伝いしていく、
という決意表明。
まだ先は長いのだと、今を楽しんでほしいとの、
私の願いでもある。
居間の引き戸を開けはなした。
居間とリフォーム部屋がひと続きになった。
そして。
私と母が、居間の中から、リフォーム部屋を見る。
照明もカーテンもついて、白い壁紙がまぶしい。
「いいね」
と私が言えば、
「いいのよー」
と母が返す。
ひと月前には思っても見なかった、
美しい光景が広がっている。
なんだかいいこと、ありそうだなと思う。
ここから、いい気流にのって、
上昇して行けたらと思う。
来年の事も、5年後、10年後のことも、
今はまだ見えないけれど、
この一瞬一瞬を大切にしていきたいと
思えてきたのである。
と、その前に、
今回のタクシー代が、
五千円ほどかかったことを、
母に注意しておかなければ!
バスで行ける場所は、バスで行かなければ!
幸せの上昇気流に、
散財は大敵なのである。